~M&Aとは~
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、通常M&Aという場合は、様々な手法(株式交換、株式移転、増資引受、会社分割等)を用いた合併・買収・経営統合に加えて、
特定の事業譲渡やゆるやかな資本業務提携までも含めた広い意味での企業間提携の総称として用いられています。(代表的な手法については、M&Aの手法を参照ください)
~M&Aを取り巻く状況~
日本企業の関係するM&A案件の件数は、1993年以降一貫して増加し10数年で4~5倍の件数(1993年の500件以下の水準から2005年~2007年は2,500件を超える水準に達し)になりました。その後、リーマンショックに代表される金融危機の影響でいわゆる投資ファンドを買い手とするM&A件数が急激に減少したこと等もあり、2008年、2009年は全体として減少となっておりますが、それでも2,000件程度の水準を維持しており、この10数年間で日本企業の間にM&Aがかなり浸透してきたことがうかがえます。
その背景としては、大きく二つの要因が考えられます。
その一つは、日本企業を取り巻く競争環境が激変する中で、自社を存続させまた自社の競争優位を維持・強化していくためM&Aを経営戦略の一つとして活用することが必須となってきたことが挙げられます。
いわゆるバブル経済の崩壊以降、多くの企業がバランスシートリストラの必要にせまられたことからスタートし、デフレ経済がつづき市場規模の拡大が鈍化もしくは縮小するような業界が多くみられる中で、ある企業はスケールメリットやシナジーを求めた統合で熾烈な競争を勝ち抜くことを目指し、ある企業は株主価値の向上を一層重視する考え方の浸透とともに経営資源の「選択と集中」を積極的に進め、M&Aを用いてノンコア事業や不採算事業を売却し、集約された中核事業においては他社の事業を買収するといった経営が迫られております。
もう一つは、後継者問題の深刻化が挙げられます。
中堅企業においては、高度経済成長期以降に創業したオーナーの高齢化が進み、事業承継が大きなテーマとなってきています。日本企業を取り巻く競争環境が混迷を極める中、単に後継者が不在なのではなく、跡取りがいても個人の財産を基盤に事業を承継していくことを躊躇せざる得なくなり、将来の競争激化等もにらんで大企業グループの傘下に入るなど、後継者問題を端緒にオーナーチェンジを選択する経営者が増えております。
大きくはこうした二つの要因に加えて、M&Aや企業再編を活発化させ、株主権の明確化や資本効率の向上により新しい価値を創造することが日本経済活性化に必要との考え方のもと、持株会社の解禁や株式交換制度の創設等に代表される法律・会計・税制等の制度面の変更が進められたことも、M&A件数の増加を後押ししてきたものといえます。
~M&Aの意義・目的~ 「新たな価値の創造」
マクロ的な観点(経済学的な観点)からみると、M&Aの社会的な意義は、「資本の効率化による生産性の向上・新たな価値の創造」にあると言えます。経済産業省も、「M&Aの促進は、我が国の産業において新陳代謝をすすめ、外部の経営資源を取り入れ、ひいては低収益体質を改善するための重要な課題」とのスタンスから、組織再編・M&Aに係る現行制度の使い勝手を改善し、企業再編の阻害要因を除去し、企業の成長性を高める土壌を整備するための提言をしております。
M&Aの意義・目的は大きな観点からみるとそのようなものですが、もう少しミクロの観点(個別・具体的な観点)から、M&A案件がなぜ行われるのかを考えるとどういうことが言えるでしょうか。
個別、具体的なM&Aが起こる主な要因を列挙すると以下のようなものがあります。そして、一つの案件には譲渡側と譲受側(もしくは統合の片一方ともう片方)が必ず存在し、それぞれの当事者も必ずしも一つの目的だけのためにM&Aを実施するわけではないので、これらの目的が複合して案件が行われることとなります。
ここで、これら一つ一つの内容の詳述は行いませんが、どの目的もその企業単独では行えない「新たな価値の創造」をM&Aによって成し遂げようとしていることが理解できます。
ミクロの観点においても「新たな価値の創造」こそがM&Aのキーワードといっても過言ではありません。
また、創造されるであろう新たな価値は、現実のM&Aの世界での企業評価に大きな影響を及ぼすものでもありますので、企業評価の項で詳しく記載したいと思います。
~M&Aのこれから~ ますます重要な選択肢に
統計・リサーチデータ等によると2008年から現在までの間で自社が属する業界において業界再編は進んだと思うかという問いに対して、約6割の企業が「進展していない」と回答し、その一方で2010年以降自社が属する業界において今後再編が進むと思うかという質問に対しては、約6割の企業が「進展する」と回答しているとのことであり、過去のトレンドと将来の見通しが対照的になっております。
私どももM&Aの世界に身をおいて20年近くになりますが、この間のM&Aの浸透ぶりには目を見張るものがあります。この仕事を始めた頃は、一般世間では「M&Aって何?」というのが常識でした。経済界においても知ってはいるけれど、どちらかというと胡散臭いもの、自らの仕事とは関係のないものという印象が大半だったと思います。それが、多くの会社、経済人が実際にM&Aを経験し、M&Aを経営戦略の有効な選択肢の一つとして用いる時代になりました。
M&Aはそのように大きく浸透しましたが、そのM&Aが生み出すはずの「新たな価値が創造」され、日本経済が豊かに効率的になったといえるのでしょうか。経済学的、統計学的な数値はよく分かりませんが、そう感じていない人が大半というのが現実ではないでしょうか。
バブル崩壊以降長引く低成長経済のもと、M&Aを経営戦略の一つの選択肢として用いるようになるほどに経営の効率化、競争力の強化を進めてきましたが、国内市場がますます縮小し、業界全体の地盤沈下が心配されるなど、日本企業を取り巻く市場環境はますます厳しくなるのではという危機感は増しており、また、経営者の高齢化とともに後継者問題は依然として継続しているような中で、今後はより効果的に「新たな価値を創造」するためのM&Aが求められていると実感しております。そうした感覚が上記のリサーチ結果にも反映されているのではないしょうか。
業界環境を一変し業界全体としての競争力を向上させるようなM&A、成長市場であるアジア市場を取り込むためのM&Aなど、今後はM&Aをこれまで以上に積極的に活用していこうという動きが強くなっていくものと考えております。
以上はM&Aを外からみた概略ですが、実際にM&Aを実施する方にとっての関心は、よい相手と巡り会えるのか、そしてそのよい相手とよい(望ましい、適正な)条件でM&Aを成立させることができ、複数の会社が組み合わさることにより新しい価値を生み出し、M&Aを成功させることができるのかということだと思います。
相手や目的によって、そのM&Aの方法(スキーム)は大きく左右されます。
統合なのか、組織は一つにしておくのか、二つにするのか、株式取得による子会社化なのか、株式取得の方法は現金による買収か株式交換か、法人全体ではなく法人の一部の事業の取得なのか… といった、手法の選択は、そのM&Aの目的、そして当事者の間をどのように関係づけておくことがその目的に適っているのか等によって大きな影響を受けます。(手法については、M&Aの手法を参照ください)
そして、M&Aの相手、およびその目指す目的は企業価値をはじめとするM&Aの条件に大きな影響を与えます。企業価値の単純な計算は、いろいろな方式に数字を当てはめていけばでてくるもので、それほど難しいものではありません。しかし、相手の属性や目的によって、企業評価に用いる方法や用いる数値にいわば哲学を盛り込まなければなりません。そこに現実のM&Aをまとめるための企業評価の難しさがあります。(一般的な企業評価の方法や現実のM&Aでの企業評価に際して考慮される要素の一部については、企業評価を参照ください)
これらのM&Aを成立させていくプロセスにおいて、第一義的にはよい相手と巡り合うことが最も重要なこととなります。
A社がX社やY社と巡り合ったとき、X社はA社と組むことで新たに10億の価値を創出でき、Y社は新たに30億の価値を創出できるとするならば、Y社の方がA社の企業価値を高く評価できる可能性が高く、そのことによってY社にとってはライバルかもしれないX社より余裕をもってA社との協議の場につくことができ、M&Aの成立にとってはプラスです。当然、高い価値をつける可能性が高いことで、A社の代表的なステークホルダーである株主も、より大きな価値を創造するY社を相手として歓迎する可能性が大きくなります。
そして、より大きな企業価値を生み出すということはA社にとってもY社と組んだ方が今後、大きなビジネスを行えるようになり、従業員にとっても、携わるビジネスが大きくなることで仕事が刺激的なものになり自己実現欲求が満たされるかもしれず、また、会社の業績があがることで報酬が増える可能性も広がるかもしれないといったように望ましいことであるといえます。
同様に取引先等にとっても、新たな企業価値を創造していくプロセスで取引量が増えたり、新たな仕事が加わったりする可能性が生じ、Y社との取組みを歓迎することになるであろうと想像できます。
どの相手と、どのような手順をおって、スキームや企業評価その他の条件をまとめ、M&Aを成立させていき、M&A後の成功を勝ち取っていくか。戦略の策定から、相手探し、そして相手やその目的に応じたスキームや条件の調整まで、かなり複雑で長い道のりではありますが、弊社はその全体をトータルにお手伝いいたしております。
新たな価値を生み出す方がよいといっても、例えば従業員の処遇の大幅な変更が前提として求められたり、取引先との関係を大きく変えていく必要に迫られる場合等、その前提も含めて慎重に検討していかなければならないことも、M&Aの話し合いを進めていく中には多々存在します。こうしたことにも、慎重かつ冷静に対応し、皆様のお手伝いをいたしております。
以下では、代表的な手法、M&Aの条件のもっとも代表的なものである企業価値の評価方法、そして上記全体をまとめていくプロセスについてその概略を説明させていただきます。